2020年07月01日

メトのライブビューイングで「ポーギーとベス」を見てきた

 本来4月上旬に上映予定だった(ってか、一部地域では上映した)「ポーギーとベス」が再上映されたので、見てきました。ウチの地域では、当初の上映期間だと、新型コロナの影響で映画館がお休みになっていたので、初めての上映なんだけれどね。

 まず“Black Lives Matter”の時代である今に「ポーギーとベス」を見るのは…刺さりますねえ。私なりに、黒人社会とか黒人の命の重さとかを、ついつい考えてしまうオペラでありました。実際、オペラの中で、白人は威張りくさっているし、黒人たちの行動原理は刹那的で暴力的で無教養で貧乏で野蛮だし、主役は足萎えの乞食だし、ヒロインはヤク中だし、黒人たちの命は軽いし、殺人を犯しても罰せられる事もないし…。まあ、今の時代と照らし合わせてしまうと、あまりにセンシティブなので、私の感想も簡単にはブログには書けないかな…って気がします。

 この「ポーギーとベス」というオペラは、世界的には、あまり上演の機会が少ないオペラなのですが、それは決して内容がダメだからではありません。いや、むしろ、音楽作品としては、実に名曲揃いで、すごいオペラだと思います。いや、ほんと、捨て曲無いんですよ。さらにストーリーもしっかりしていて、芝居としても上出来です。

 ただ、キャストのほぼすべてが黒人でないと難しい事(ってか、作曲家ガーシュウィンの指定として、黒人以外が歌う事は禁じられているそうです)と、音楽的には現代オペラであるため、クラシックとポピュラーの両方が得意でないと難しいために、なかなか上演されないのだろうと思います。実際、黒人である…という制限を取っ払ったとしても、日本のオペラカンパニーで「ポーギーとベス」を上演するのは難しいと思います。音楽的には、実に様々な種類の音楽要素が必要なので、クラシック畑出身者が多い日本だと、かなり難しいオペラだろうと思います。少なくとも、ジャズ・ヴォーカル(黒人音楽ですね)にも、キャバレーソング(白人音楽ですね)にも、オペラ(言わずとしれたクラシック音楽だ)にも堪えうる歌い手でないと、このオペラは難しいだろうと思います。実際、アメリカでも、オペラハウスでの上演よりも、ミュージカル劇場での上演の方が多いくらい、歌手たちにポピュラー音楽の技量が必要な作品です。

 キャストはこんな感じでした。

指揮:デイヴィッド・ロバートソン
演出:ジェイムズ・ロビンソン

ポーギー:エリック・オーウェンズ(バス・バリトン)
ベス:エンジェル・ブルー(ソプラノ)
クララ:ゴルダ・シュルツ(ソプラノ)
セリア:ラトニア・ムーア(ソプラノ)
マリア:デニース・グレイヴス(メゾ・ソプラノ)
スポーティング・ライフ:フレデリック・バレンタイン(テノール)
クラウン:アルフレッド・ウォーカー(バス・バリトン)
ジェイク:ライアン・スピード・グリーン(バス・バリトン)

 ポーギー役のエリック・オーウェンズとマリア役のデニース・グレイヴス以外は、ほぼ新人さんなんだそうです。つまり、トップレベルの歌手たちの中には「ポーギーとベス」をレパートリーにしている人がほぼいないという状況なのでしょう。実際、メトですら、30年ぶりの上演なんだそうです。いやあ、本当に上演が稀なオペラなんですわ。

 ちなみに、ポーギー役のオーウェンズは、この日、ひどい風邪をひいていて、病気をおしての出演だと、劇場支配人のピーター・ゲルブスがアナウンスしていましたが…それって大丈夫なの? 収録日は2020年2月1日って事で、この時、すでに新型コロナウィルスは世界的に猛威をふるっていたわけで、我々日本人的には、例のクルーズ船プリンセス・ダイアモンド号が横浜に来ていた時期と言えば「ああ、あの頃か」と分かっていただけるだろうと思います。

 アメリカ的には、新型コロナのための都市のロックダウンは、3月から始まりましたが、その時すでに「ロックダウンが2週間遅かった」って言われていたわけだから、「ポーギーとペス」が上演された2月の時期、アメリカ国内にも新型コロナウィルスが流行り始めていたわけです。主役のオーウェンズがコロナに罹ったというニュースは無いので、たぶん大丈夫だったのでしょうが、出演歌手に風邪症状があって高熱があって…となったら、今なら「病いをおしての出演、ありがとう」ではなく、彼が楽屋入りした段階で劇場封鎖で全館消毒をしなければいけないでしょう。まだまだアメリカ人たちが「コロナウィルスなんて、貧乏で不潔なアジア系の病気。我々には関係がない」というナメた人種差別的な考えをしていた証拠です。

 このオペラを見終えて私が思った事は、たぶん、私達日本人には、アメリカにおける黒人たちの生活とか社会状況なんて、ちっとも分かっていないんだろうなって事です。オペラの随所から感じられる無力感と刹那主義は、黒人たちの抱える心の深い闇なのだろうなあって思うわけです。その闇の存在をうすうす感じる事はできても、闇の深さには到底理解が及ばないと思った私でした。

 このオペラには8人のバレエダンサーたちが参加していて、劇中、要所要所でアフリカンなダンスを踊るのですが、私にはそのダンスが目障りで不要なモノにしか見えませんでした。しかし、おそらくあのダンスは、我々には理解できない“黒人たちの怒り”を言葉や音楽では無く、今の時代だからこそ、身体表現として表現しているんだろうなあって思いました。

 オペラ「ポーギーとベス」は、アメリカ人が書いたアメリカオペラであり、演じているのもアフリカ系アメリカ人キャストで、メトはアメリカのニューヨークにあるわけで…やっぱり、アメリカは我々日本人にとって、外国だし、我々とは異質な文化社会なんだなって感じたわけです。

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posted by stone at 04:00| Comment(0) | 歌劇
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